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スパークス・アセット・マネジメント株式会社(以下「当社」)は、1989年の創業から一貫した投資哲学である「マクロはミクロの集積である」に基づき、徹底したボトムアップ・アプローチから生み出される独自の投資仮説を提供し、革新的な投資手法を開発するよう努めてまいりました。
当社の上場株式投資戦略では、個別企業の調査を重視するボトムアップ・アプローチをとっています。具体的には、数値や書面情報といったデータから各社の実績を把握し、そのうえで各社と適時に面談、対話する手法をとっています。
調査・分析については、「経営の質」「企業収益の質」「市場成長性」という3つの着眼点からの定性的な分析、および「ROE(株主資本利益率)」「キャッシュフロー」に重点を置いた定量的な分析により、企業の実態価値を計測するプロセスを一貫して用いています。
当社の上場株式投資戦略では、1989年の創業来から経営陣との対話や定性的な評価を重視しており、こうした要因を投資プロセスに統合してまいりました。
ESGは現在注目を集めるようになり、企業評価において重要性を帯びていますが、上場株式戦略では、投資銘柄を選別する際に対象企業がステークホルダー価値を創造していることを確認し、さらにこの価値が経済的価値を創造しているかどうかを精査します。
「ステークホルダー価値の創造」とは、企業を取り巻くすべてのステークホルダーが豊かで健やか、そして幸せになることを意味しています。このため、上場株式戦略では短期利益のみを追求する企業には投資いたしません。
上場株式戦略がステークホルダー価値に着目する理由は、これを企業の経済的価値に先行する指標と考えるためです。ただし、経済的価値を創出しない企業活動は持続可能とならないことから、社会的意義があり、ステークホルダー価値を創造していたとしても、経済的価値の向上を伴っていない企業には投資いたしません。
また、ステークホルダー価値を大きく損なう可能性を低減させるため、ESGの観点から問題となる事業を保有する銘柄は、投資除外基準(エクスクルージョン基準)に基づき投資ユニバースから外しています。
上場株式戦略で企業価値を検討する際は、実績に基づき開示されている財務情報、ESGデータなどの非財務情報を参考にしますが、最重要視するのは、ボトムアップの個別調査で得られた情報を元に、今後改善できるかどうかという点です。したがって、現時点でのステークホルダー価値ならびに経済的価値の絶対レベルが低くとも、改善に向けて正しく進んでいる企業であれば、投資対象候補に加えることとなります。お客様、従業員、仕入先、さらに取引先や地域社会をも包含したあらゆるステークホルダーとの関係が、対象企業における中長期的な成長を促すかどうかについても、大きな関心を向けます。
さらに上場株式戦略は、企業評価における基軸として「1.経営の質」「2.企業収益の質」「3.市場成長性」の3点から質的分析を実施しており(図1)、ESG評価のみで投資が決定されることはありません。例えば、割高な株式であったり、広範な投資家がすでに分析済であり、さらなる分析で付加価値があることが確証できなければ、収益を市場平均以上に得ることは難しいと考えるためです。
投資した後には、ステークホルダー価値を大きく損なう可能性のある事象(ESGインシデント)を定期的にモニタリングし、さらに中長期的な企業価値向上の観点から投資先企業の状況把握に努め、対話を通じて企業の価値向上を株主の立場から支援します。ボトムアップ・アプローチの特徴を活かして、公開情報を検証するだけではなく、企業との直接対話を継続することで、(1)事業環境に即した有効な経営戦略が採用されていること、(2)適切な企業統治構造を有していること等を精査しています。
当社は創業以来、一貫した投資哲学である「マクロはミクロの集積である」に基づき、投資先企業の経営者との対話を中心に据えた、徹底したボトムアップ・アプローチによる投資活動を実践してまいりました。日本版スチュワードシップ・コードでは、投資先企業の持続的成長を促し、かつ受益者の中長期的な投資リターンの拡大を目指すという基本理念を掲げています。当社の投資哲学とも合致するため、本スチュワードシップの理念を積極的に受け入れ、その諸原則に当社がどのように対応するかという具体的な方針を公表しています。
当社は、主に個々の企業調査を重視してボトムアップで運用しており、対象企業の経営方針および環境・社会・コーポレートガバナンス等の要素を掘り下げて調査し、十全な理解を得た後に、投資先企業を選定しています。そのうえで、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう議決権等で意思表示をします。
ここで、当社の上場株式戦略におけるESGデータの活用方法をご紹介いたします。
上場株式戦略は、調査を進める際「企業が開示しているESG情報」を最重要視しています。ここで「ESG情報」と記したのは、ESGデータだけでなく、企業理念や経営者のビジョン、具体的な企業活動すべてをESGの情報源であると考えているためです。
また、外部データも参考資料として用いており、サステナリティクス(モーニングスターの子会社)やS&Pグローバルからデータを購入しています。さらに、ブルームバーグを通じて各種のESGデータを入手しています。サステナリティクスのデータを参考に、事業エクスクルージョンおよび行動エクスクルージョンの基準で投資から外す銘柄を設定していますが、スコアによるエクスクルージョンは行っていません。つまり、ベストエフォート型で投資する姿勢をとっています。
上場株式戦略では、投資先の全企業、および投資候補である企業の本源的価値を計測するプロセスにESGデータを組み込んでいます。企業価値の計測では将来利益や割引率などを予測・推計しますが、この段階で社内外のESGデータを反映してから数値を最終決定しています。
将来の売上・利益を予想するうえでESG要因が重要であると考えるため、下記のような定性的な観点から企業を評価し、長期業績予想に逐次反映しています。また、ESG要因による影響を投資リスクへ反映させ、バリュエーションの評価に利用することもあります(図3)。
【E】Environment
地球環境にビジネスが及ぼす影響は今後のビジネスにおいて大きなリスク要因であり、また投資機会でもあります。長期的なビジネスの存続可能性という観点から、企業収益の質を分析するうえで環境という要因は密接な関係があると考えます。また、潜在成長力やビジネス機会といったプラスの観点からも、成長阻害要因としてのマイナスの観点からも、これは影響の高い因子であると考えます。
環境負荷削減に取り組んでいる企業・産業や、それに関連した投資案件に対しては、重点的な投資候補として調査を続ける方針です。地球環境に大きくマイナスの影響を与え続けている企業には、原則として投資をしない方針です。しかし、環境負荷の高いエネルギー関連企業やエネルギー負荷の高い活動企業であっても、将来の改善に向けて活動を進めている企業については、投資する可能性を排除しません。
【S】Social
長期的に企業状況を分析するうえで、企業の社会的な活動は重要な要因です。また、投資案件の周辺コミュニティや長期の投資リターンに大きく影響を与える要因でもあります。企業の社会的な役割は国家を問わず重要視されており、企業が社会的責任を果たしているか否かは、競争力を大きく左右します。
社会という観点からは、企業収益の質が最も重要です。社会貢献としてのビジネス評価、またサプライチェーンや労働力を利用する方法、生産性という点でも、企業収益の質とは密接な関連があります。また、経営者の質を分析するにあたり、社会貢献に対する経営陣の考え方や社会的なビジネスの位置付けなどを勘案します。
例えば、現在の社会情勢の残念なことのひとつに、貧富の差の拡大が顕著になっていることが挙げられます。この傾向は世界各地で顕在化しています。最も基本的な企業活動のひとつは労働力の活用であり、上場株式戦略における最も重要な経営課題として、優良な労働力をどのように長期的に確保し、モチベーションを高く保って働いてもらうかということがあります。従って、不平等な労働条件、不当な労働環境で勤務させる企業が社会で長期にわたり存続していくのは非常に難しいと考えています。
以上のことから、上場株式戦略では、対象企業が適切な労働条件を提供し、社会的責任を果たしているかが投資における重要な要件であると考えます。また、社会的責任を重視して戦略を立案している企業、周辺コミュニティや社会にプラスの影響を与えている企業については、投資を前向きに検討する方針です。
【G】Governance
企業が長期的な競争力を維持するために最も重要な要因は、経営者であると考えます。創業以来、投資決定に際して経営者と面談し、その資質を分析することが重要なプロセスであると信じる当社は、年3000回を超える(2020年実績)調査を継続し、経営分析能力を向上させるために日々努力を重ねてきました。今後もこの姿勢を貫いてまいります。
経営者との面談で重要な論点の1つが、ガバナンス方針です。資本主義社会において、ガバナンスは経営と資本の分離という機能分化を実現した、社会システムの根幹をなす機能です。経営者の役割を自覚し、これを果たすことは、株主だけでなく全ステークホルダーにとって重要な要因です。企業経営や投資案件においても、適切に意思決定プロセス、戦略立案、モニタリングが行われることが最重要であると考えます。
以上のように、定性的なこの3大観点から企業を評価した後、投資候補として対象企業を位置付けます。ESGも含めて総合的な質的要因で投資評価をするため、ESG評価の高い企業に自動的に投資するということでもありません。ESGの観点は、長期的に企業を評価するリスク要因であり、プレミアム要因であると評価して、企業価値を算出しています。
このように計測した「ESGを加味した本源的価値」と株価を比べる仕組みを導入していることで、判断が困難な条件であっても、「ESG評価は高いが、株価が割高であるため投資しない」、または「ESG評価が改善途中でも、株価が安いため投資する」といった投資判断が可能なのです。
上場株式戦略では、アセットマネージャーとしてアクティブファンドを運用しており、エンゲージメントによって企業活動を積極的にサポートする考えです。
実際のエンゲージメントは、運用チーム自らが実施する体制をとっています。調査活動で得られた情報があるからこそ、有効なエンゲージメントができると考えているためです。逆に、エンゲージメントで得た情報を活用することで、より掘り下げた考察をともなう投資判断へとつなげることができます。エンゲージメントの手法は、対話および議決権行使を中心に据えています。議決権行使については、運用チームが投資先企業の全議案を一つずつ精査し判断しています。
エンゲージメントでは、それぞれの企業にとって最重要と思われる議題を提起します。その際、気候変動対策などグローバルな重要課題についても、温室効果ガスの数字を単にヒアリングするといった手法ではなく、当該企業にとって最適なアプローチの観点から対話をするよう心がけています。企業ごとに対応を変えるやり方は、当社の特徴であるボトムアップ調査があるからこそ実行できる、有効性の高いアプローチであると考えています。
近年、上場企業ではESG開示が改善されてきており、当社ではこれをとても良いことと捉えています。特に先進的な企業ではマテリアリティ特定、ポリシー開示、管理体制整備などが進んでおり、今後は活動結果としてのデータを改善していく段階に入っています。実態の改善には時間がかかるでしょうが、少しでも迅速に、業績が悪化した局面であっても活動が滞らないよう、着実に進めていただくよう期待する次第です。
一方で、まだESG開示ができていない企業も散見されます。「事業自体が社会に貢献している」という表現で自らを納得させ、その先の議論をしていないと思われる企業もあります。これではグローバル観点で投資家への説明責任が不足していると考え、改善を期待したいところです。自社がESG的に優れていると考えている企業は、外部のステークホルダーに示すためポリシーとしてまとめ、管理体制を整備して説明していただきたいと強く思います。
いったん開示すれば、投資家など外部のフィードバックを受けることで、次の改善案が得られます。実際、フィードバックを反映させた開示で次の対話を進めるという活動を繰り返している企業もあり、そうした企業との対話では将来の発展性を強くイメージできるため、投資評価としてプラスに作用します。
私たちは、ESG対応だけでなく、企業が意識して経済的価値とのつながりに取り組んでいるかという点を重視しています。また、ボトムアップで一社一社の企業と対話して投資を判断しますが、それはESGデータに目を向けないということではありません。当社はESGデータについて、まだ不完全ではあるけれど、少しずつ改善しており、いつの日か多くの人が納得する情報源となると考えています。私たちはこのプロセスへの積極的な関与も貢献のひとつであると考えており、開示されたESGデータが不足であると思えば、充実していただけるように求める場合もあります。
ここでいうESGデータとは、結果としての数値だけではありません。環境や社会にどのように接していくかというポリシーの開示も含まれます。さらに、グローバルなレポーティング基準および評価機関の基準に沿った形で、こうしたポリシーやデータを開示するよう努めることも、より使いやすいデータコミュニティを築くために有益だと考えています。
多様なステークホルダーの最適なバランスをとるにあたり、唯一絶対の答えが存在するわけはありません。だからこそ、私たちは日々学び、考え、話し合い、ときには意見を交換し合って、答えを探していく「過程」を大切にする必要があると考えます。私たちも常に新たな気持ちで心を開き、境界線を引くことなく、異なる考え方に寛容であり続けることで、新時代に移行する過程に積極的に関与していく所存であります。